『進撃の浦山ダム』痛車とコスプレイヤーが秩父・浦山ダムに集結

もはや「痛車」はちっとも痛くない

爽やかな春の日射しが秩父の新緑を明るく照らす2019年4月21日の日曜日、浦山ダムの上に100台近い「痛車」が集まった。その周囲でポーズを取る美しいアニメの女性キャラに扮した「コスプレイヤー」の方々は、話しかけてみると声が男性だったりする。今年も「進撃の浦山ダム」と呼ばれる痛車/コスプレ・イベントが開催されたのだ。

“痛車”とは、アニメやコミック、ゲームに登場するキャラクターをボディに描いたクルマのこと。痛車が集まるイベントは今や全国各地で開催されているが、秩父商業青年経営者研究会、び〜んずが主催する「進撃の浦山ダム」は、水資源機構荒川ダム総合管理所の協力により、「仮面ライダー」シリーズをはじめとする数々の特撮ドラマでも撮影に使われた浦山ダムを会場とする。上流側を向けば美しい稜線とダム湖の絶景が拡がり、下流側では秩父の市街が一望できる。そしてダムの上には個性豊かな痛車がずらりと並ぶ。そんなロケーションで秩父名物みそポテトや豚みそ丼を食べれば、美味しく感じないわけがない。今回は「進撃の浦山ダム〜第九章〜」と銘打たれているとおり、9回目を数えるこのイベントは5年前から毎年春と秋に開催されている。台風で一度中止になったことがあるそうだが、今のところ巨人がダムを越えて襲ってきたことはないようだ。気持ちの良い景色と楽しい雰囲気は第十章が開催される時に是非ご自身で体験していただくとして、今回のイベントに集まった痛車とコスプレイヤーの一部を写真でご紹介しよう。

トヨタ・ハイエースが牽くトレーラーに載せられたホンダS660は、無限のフルキットを装着した上、ガルウイングに改造されている。痛車でなくても目立ちそうなクルマだが、荷物が載らないのが不便なので、乗るのは「秋葉原へ行く時くらい」だとか。

「紗綾」と「沙姫」というキャラクターは絵師の方(夏宮ゆずさん)に頼んで描いてもらったというオリジナル。オーナーは普段のアシ車としてレクサス GS F(5.0リッターV8エンジン搭載のスーパー・セダン)を所有するが、「燃費が悪いので軽自動車をもう1台買おうと思って」手に入れた1970年代のホンダ Z360を現在レストア中というかなりの自動車エンスージアスト。

1970年代の初代日産フェアレディZ…と思いきや、よく見ると左ハンドル。つまり、”DATSUN Z”と呼ばなければいけない。日本では良いクルマが見つからず、米国から個人輸入したそうだ。パーツも米国で再生産品が比較的安価に手に入るそうである。エンジンは2.8リッターに、トランスミッションは5速に載せ替えられている。ビス留めのオーバーフェンダーやスポイラーが迫力だが、それより目を引くのはリアルカーボンのボンネットに美しく描かれた『キャッツアイ』と『シティーハンター』のイラスト。車体右サイドにも『キャッツアイ』の三姉妹、左サイドには『シティーハンター』の冴羽獠と槇村香が描かれている。

『シティーハンター』でお馴染みの100tハンマーと並んで置かれた伝言板に「xyz」と書けば、このクルマに乗せてもらえるらしい(ただしもちろん”もっこり美女限定”)。

スズキ・ハスラーの『THE IDOLM@STER(アイドルマスター)』仕様は、メーカーが宣伝のために製作したのではないかと思ってしまうほどの出来映え。単にキャラクターの絵を描くだけでなく、背景のストライプやグラフィックが、クルマのデザインやボディ・カラーと上手くマッチしている。オーナーの話によれば、デザインも施工も「業者に頼んでやったもらった」そうだが、痛車施工業者のレベルの高さがうかがえる1台。

ローバー・ミニのオーナーは、『進撃の巨人』に登場するリヴァイ兵長のお掃除姿のコスプレで仲間と参加されていた。ブリティッシュ・レーシング・グリーンのボディに白いルーフとボンネットのストライプ、センター2本出しのマフラー、メッキの燃料キャップにスポーツパックのオーバーフェンダーなど、一見するとミニの基本を抑えたドレスアップだが、ボディサイドに『進撃の巨人』の1シーンが描かれている。

“兵長”によると、ミニは英国のコメディTVドラマ『Mr.ビーン』を観てからずっと憧れていたという。子供の頃に好きだった『Mr.ビーン』と、青年になってから好きになった『進撃の巨人』。両者に対する想いが1台のクルマに結集している。

マツダRX-8に施されたグラフィックは『ガールズ&パンツァー』とのコラボでD1グランプリに参戦しているPACIFIC RACING TEAMのマシンからインスピレーションを得たという。最近ではサーキットでも見られるアニメとモータースポーツの融合。きっとオーナーはどちらも大好きなのだろう。

こちらの三菱ランサー・エボリューションも同様に、アニメ作品とコラボしたレース仕様車を思わせる。オーナーはこれまでランエボを乗り継ぎ、実際にサーキットを走っていたそうだが、この最終モデルは大事に乗ることに決め、速くて美しい痛車に仕上げたそうだ。『ご注文はうさぎですか?』の英語名がタイヤのサイドウォールにマーキングされているなど、クルマ&アニメ好きならではのセンスを感じさせる。

『傷物語』仕様のダイハツ・ミラジーノ。ボディのサイドに描かれたグラフィックは、アニメのエンディングがモチーフになっているという。クルマのデザインやカラーリングと、とても良くマッチしている。

クラシックな軽トラは、マツダ・ポーターキャブの『ゆるキャン△』仕様。アニメではなく、原作の絵が使われているサイドのグラフィックは、マグネットシートなので取り外しも可能。こんなクルマでのんびりとキャンプに出掛けたらきっと楽しいに違いない。

こちらのトヨタ・プリウスαは同じ『ゆるキャン△』でもアニメ版の絵が描かれている。いずれにせよ、「ちくわ」(同作品に登場する犬)のぬいぐるみは欠かせない。

『URAHARA』仕様のダイハツ・ミゼット2。オーナーは右側の”男性”です。

『艦隊これくしょん-艦これ-』の「五月雨」仕様ダイハツ・コペンのオーナーは、コスプレで参加(こちらも男性。念のため)下道を使って名古屋から秩父まで来られたそうだ。リア・スポイラーを装着した後からラッピングを施したので苦労したとか。オーナーはこの軽自動車で、名古屋から大阪、九州まで出掛けていくという。

オープンソース系アイドル「ユニティちゃん」仕様のアバルト124スパイダーは、”イタ車(イタリア車)の痛車”。ほぼ全面ラッピングが施され、元の色が分からないほど。ホイールもイタリアのOZ Racing。ちなみにアバルト124スパイダーはイタリア・フィアット社のクルマだが、車体を共有する兄弟車のマツダ・ロードスターと共に、組み立ては日本の広島にあるマツダの工場で行われている。

フォルクスワーゲン・ゴルフといえば世界的ベストセラー車だが、こちらはその中でも非常にレアな「R32」。コンパクトな車体に3.2リッターV6エンジンを搭載した最強のゴルフだ。オーナーは第5世代のゴルフを3台も乗り継いできたというマニアで、稀少なR32が欲しくて販売店に「イタ電のように毎日電話して」ようやく手に入れたという。世界ラリー選手権に参戦していたフォルクスワーゲン・ポロのカラーリングをモチーフに、『艦隊これくしょん-艦これ-』の「村雨改二」を描いたグラフィックを組み合わせている。

痛車化するにはキャラクターをプリントしたラッピングを車体に施す方法が一般的だが、こちらの2台は無地のシートから手作業でキャラクターを切り出して貼り付けたという。ラッピングほど費用は掛からないだろうが、膨大な時間と根気を要するに違いない。そうして出来上がったキャラクターは、1つひとつが切り絵の見事な作品となっている。

“コスプレ”はアニメのキャラクターに限らない。ずらりと並んだ日産スカイラインとトヨタ・クラウンには、覆面パトカーや要人警護車両を模した改造が施されている。ルーフに格納される回転灯の仕組みも含め、全て自作だそうだ。もちろん、実際に回転&点滅する。

このスバル・インプレッサは、いわばクルマが昔の戦闘機のコスプレをしている。オーナーに訊いたら「双発機が好きなんです」とのこと。ボディのヘコミは戦闘で受けた傷跡…ではなく、このクルマでラリーに出場したときにぶつけたそうだ。軍用色を思わせるつや消しグリーンの塗装は自分で刷毛で塗ったもの。サイドステップは塩ビ管とペットボトルで自作したという。

ジープのミニチュア版。50ccエンジンを搭載し、もちろん公道もちゃんと走れる。バラバラの状態で箱に入ったキットなら、20万円くらいから買えるとのこと。それを自分で組み立てて、自分好みにカスタムしていくという。

こちらのトヨタ・クラウンは『ガールズ&パンツァー』のアンツィオ高校仕様。アンツィオ高校がイタリア流の女子校であるため、イタリア車風のカラーリング(アバルトを真似したとか)を施したという。アニメを知らない人が見れば、痛車とは思わないだろう。

今回ご紹介したのは参加車両のほんの一部だが、昨今の痛車がデザイン的にかなり高いレベルにあることはお分かりいただけたと思う。アニメをモチーフにドレスアップされたクルマ自体が、ポップカルチャーのアート作品と呼べそうなものも少なくない。また、ベース車両にもユニークなものが多く、クルマもアニメも大好きなオーナーが、両方のジャンルをひっくるめて楽しんでいる様子がよく分かる。

“痛車”という呼称は、好きなアニメのキャラクターをクルマに描いて楽しんでいたオーナー達が自虐的に言いだしたという説があるが、もはや彼らのセンスや情熱を「痛い」と笑える人は少数だろう。むしろ愛するアニメやクルマ、そして同じ趣味を持つ仲間達に囲まれて、豊かな生活を楽しんでいる姿が羨ましく感じられるほどだ。堂々と「これが大好きだ!」と言えるものを1つも持っていない人がいるとしたら、そちらの方がよっぽど痛々しい人生ではないか。

取材:日下部博一 / 記事:編集部

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